ワンフェスのフィギュアはどのくらいの時間をかけて作られているのか?製作時間と売上から時間あたりの売上を出してみた。

モデラー

  • 柚P

 

こんにちは。柚P(@yzphouse)です。

この前書いた「ワンフェスで売られているフィギュアの原価はいくら?ガレキの値段が本当に高いのか、自分の作ったフィギュアで計算してみた。」の記事がかなり反響があったので、その繋がりで今回は「フィギュアを作るために必要な時間」の話を書いてみようと思います。

ワンダーフェスティバルでフィギュアを作る、という行為自体は趣味でやっている方がほとんどなので、そもそも「利益を求めること自体が野暮だ」と思われる方も多いでしょう。

ですが、私も利益をまったく気にしていないといったら嘘になります。「フィギュアを売る以上は、製作にかかった費用くらいは回収したい」というのが本音です。

あとこれ、結構混同されがちなんですが、ガレージキットは同人誌や違法ファングッズとは違い、作るフィギュアはちゃんと版権元に許可を取り、それを販売するのにそれなりの対価(版権料、完成品サンプルなど)を払っています。

つまり、趣味の延長線ではあるものの、それは紛うことなき「公式のグッズ」なんですよね。なので、ガレージキットに関しては”頒布”ではなく”販売”という表記で書かれることも多いです。

ちゃんと版権元に「あなたの作品で売上をあげます。一部の客層を奪うかもしれませんがよろしいですか?」という許可を取った上での販売なので、積極的に売上を求めてもなにも恥ずかしいことはないのです。

もちろん、それを「ダメです」って言うところもあります。集◯社とか任◯堂が有名でしょう。この辺はイベントでの当日版権の許可が降りないので個人でのフィギュアやグッズ販売することができません。

そんなこんなで、そんなガレージキットの製作はどのくらい掛かるのか?というのを具体的に説明してみようと思います。

ガレージキットの原型を作るのにどのくらいの時間が掛かるのか?

フィギュアの構想を練って、パテや粘土を使って造形し、パーツの分割、パーツの磨き、完成までに掛かる時間です。これに関してはもう「人によります」としか言えません。

早い人なら、1ヶ月そこらで仕上げちゃいますし、遅い人は、WF受付開始からWF本番までずーっと同じフィギュアを作り続けている人もいます。

なので、ここは1つの例として、自分を例にして時間を算出してみようかと思います。

今回行われたワンダーフェスティバル2018冬の受付が大体8月くらいだったので、そのくらいから作るフィギュアを決めて手を動かし始めます。

私の製作した「チト」と「ユーリ」は、フィギュアとしての造形的に”かなり簡単な方”だったと思います。なので2体でようやく普通のフィギュア1体並の造形量?になるんじゃないでしょうか。

製作開始からの作業時間は、大体1日に平均2時間程度。

私はエポキシパテを使用していて、パテの硬化時間もあるのでぶっ続けの作業には向いていません。そのため1日に2時間と「少しづつ」進め形を作っていきます。

もちろん作業しない日や、ぶっ通しで数時間作業する日もありました。そういうの含めての1日2時間くらいです。私の場合は模型誌の作例など、その他の製作依頼も間に入ったりするので、その製作日数は削っています。

そのためフィギュアの原型を作るのに大体3ヶ月くらいになります。

パテや粘土を0から造形するので、プラモデルみたいに一日二日で完成!とはいかないのです。でも作ってる本人達はそれが楽しいんですけどね。

あとは、それを元にひと月を30日で計算すると

  • 30日×3ヶ月×2時間=180時間

この結果は、自分の記憶から「だいたいこのくらいかなー?」ってところで出している数字です。ストップウォッチとか使って正確に計ったものではないので、実際の時間より多いかもしれないし、少ないかもしれません。

ワンダーフェスティバルでフィギュアを作られているディーラーさんの殆どは「別の本業をしながらイベントに参加している」という方がほとんどだと思います。

つまり仕事が終わってから(大体6時~7時前後に)ご飯を食べて、お風呂に入って9時ぐらいから、ようやく作業開始という感じでしょう。

なので、1日2時間で3ヶ月というのは一つの目安として、他のディーラーさんの環境と近いものがあるのではないでしょうか。

フィギュアの複製に掛かる時間

ここからはフィギュアを量産する、複製に掛かる時間です。

複製はやることが決まってるので、結構具体的な数字を出せそうです。ただ、ここからの説明は専門用語とか出まくるので、よくわからない方はスルーして結果だけ見てください。

また、この製作時間も私の場合を例として挙げます。作るシリコーン型は合計6つです。それを作る時間を計算していきます。

粘土埋めに掛かる時間

粘土埋めは、慣れで作業スピードが大きく変わってくると思います。

私が大きさ18cm×14cmの型を使った粘土埋めする場合にかかる時間は、掛かっても2時間くらい。早ければ1時間くらいです。なのでここでは間を取って1.5時間とします。

これを6つ作るので、粘土埋めも6回おこないます。そのため

6×1.5時間=9時間

になります。

シリコーンに置換する時間

粘土埋めをした部分にシリコーンゴムを流し、シリコーンに置換する作業です。

ここでシリコーンの硬化時間を入れてしまうと大変なので、硬化中は基本的に「寝てる」ということにします。

【シリコーンゴムを流す→粘土を剥がす→離型剤を塗る→シリコーンゴムを流す】

そのため、上記の時間だけ計算してみます。

シリコーンゴムを使うためには、硬化剤を入れたり軽く流した後にエアーで気泡を潰したりと、結構いろんな作業があります。

▼詳しくはコチラの記事を参考にしてみてください。

フィギュア複製を徹底解説!シリコンを使ってレジンを流す型を作ってみよう!

▼もしくは、モデルグラフィックスの2018年4月号で複製特集をやっているのでそちらを購入されるのもオススメです。

シリコーンゴムと硬化剤を混ぜる作業と粘土埋めをした部分に流す作業は、合わせて大体20分くらいでしょうか。あんまりゆっくりやってても硬化が始まってしまうのでスピーディーに作業します。

そして片面のシリコーンが硬化後、粘土を剥がします。実はこの作業、結構時間がかかります。綺麗にツルっと剥がれてくれればいいのですが、殆どの場合、原型とシリコーンの間に粘土が残ってたりします。

この残った粘土を針やブラシを使ってすべて取り除きます。作業時間は大体30分くらいでしょうか。

粘土を取り除いたら離型剤を塗ります。液体を塗るだけなので5分くらいで終わります。

最後に反対側のシリコーンを流して終わりです。同じく20分と計算しましょう。

ここから一つの型にかかる時間が、20分+30分+5分+20分=75分という事がわかりました。

計算すると、6つ型があるので

6×75分=450分=7.5時間

となります。シリコーンの硬化時間があるので絶対に7.5時間では済みませんが、計算上はこんなもんでした。日数で計算するなら4日は掛かりそうです(笑)

シリコーン型を調整する

シリコーンゴムに置換したら、シリコーン型として使えるように「原型を外す作業」や「湯口の製作」をします。

原型を外す作業は時間はかからないので考えないこととして、湯口をつくる作業だけを計算します。

湯口を切る作業は大体20分くらいでしょうか。いやこんなに掛からないかも。10分にしておきましょう。

計算します。6つ型があるので、6×20=120分=2時間です。

レジンを流して量産する時間

多分これが一番時間かかります。

型に1つづつレジンを流して、パーツにしていく作業です。

レジンが硬化する時間は、冬で120秒硬化タイプの物を使うとして、シリコーン型から取り出すまでが大体20分~30分となります。

6つのシリコーン型をローテーションで回すため「硬化させている時に別の型にレジンを流す」という作業になります。基本的にレジンを流す時間は硬化させてる時間に含まれているので計算しないものとします。

ですが、このローテーションができるのは、型が3つで回すのが限界なので

  • 型① レジン流す(硬化開始)5分
  • 型② レジン流す(硬化開始)5分
  • 型③ レジン流す(硬化開始)5分
  • 硬化待ち 25分
  • 型① 硬化終了→パーツ取り外し→レジン流す
  • 型② 硬化終了→パーツ取り外し→レジン流す
  • 型③ 硬化終了→パーツ取り外し→レジン流す
  • 以下ループ

という流れでになります。

初回の3つの型にレジンを流した後、硬化待ちで25分待機、その後は25分ごとに1つの型から1ショットができ上がるという計算です。

そのためちょっと面倒くさいですが、3つの型を1セットとして計算します。

1つの型で23回パーツを複製しなければいけないので、23×3=69回 複製する必要があります。

  • 初回 レジン流す 3型分 15分(残り66個)
  • 硬化待ち 25分
  • 残り66個 硬化時間25分→66×25分=1650分

15分+25分+1650分=1690分=28時間と10分

となります。もちろんシリコーン型は6つあるので、これを×2します。

というわけで、複製にかかる時間は56時間と20分となりました。

パーツの梱包・パッケージ・インストの製作

なんだかこの計算を続けるのが嫌になってきました。今まで知らないからできてたって感じあるかも・・・。

この記事見てイベントでフィギュア作るのやめる人でてこないでね・・・。

次に複製したパーツを梱包したりする作業やパッケージ・インスト(取説)を作る作業をおこないます。

これも実際に自分が作業した時間を出します。このへんは比較的最近やった作業なので結構覚えています。

パーツ梱包に掛かった時間は、10時間くらいです。丸い日に作業しました。

主には「複製したパーツの切り離し・仕分け」が一番時間がかかりました。複製した端から梱包すればもっとスムーズに進んだのかもしれません。

私は複製した物をそのままダンボールに入れまくってたので、このような作業の仕方になってしまいました・・・

パーツの梱包が終わったらパソコンでパッケージと取扱説明書を製作します。イラレとかフォトショとかsaiとか使います。

どちらも手書きイラストを入れたので、それを描く時間も入れます。

パッケージイラスト自体は2時間くらいで描きました。白黒なので丁寧に描いてもかなり早いです。チトとユーリ二人いるので合計4時間。

インストのほうはパーツリストとなる部分が手書きですね。原型を並べて写真を撮ったもののアウトラインを描く感じです。コチラも1枚1時間程度で描けるので2つで2時間です。

次に描いたイラストを元にパッケージのデザインをしていきます。お客さんが手に入れた時の第一印象になるので、しっかりデザインします。大体2時間くらい。

インストも同じようにデザインしていきます。説明書きとか書くことは以前使ったテンプレートがあるので、それを応用しています。そのためこちらも2時間くらいで作れます。

これらを合計すると

10時間+4時間+2時間+2時間+2時間=20時間

でした。

梱包したフィギュアパーツにパッケージを貼り付ける

袋詰したパーツにパッケージを貼り付けたりインストを入れたりします。

インストを折ったりパッケージを切り出したり、意外と大変です。

この一通りの作業も丸一日かかったので8時間とします。

フィギュアを製作・複製するのにかかった時間の合計

  • 原型を製作 180時間
  • シリコーン型を製作 18.5時間
  • レジンを流す 56時間と20分
  • 梱包・パッケージ製作 20時間
  • パッケージ貼り付け 8時間

282時間と50分でした。(11日と18時間)

実際、282時間で完成できるのか?って言われればもちろんNOです。

買い出しから色んな所でもっと時間がかかってます。あとこれはぶっ通しでの作業時間なので、ホントなら作業の間にちょっとした休憩があったりします。人間なので。

人が行う作業で完璧な数字を出すなんてのは難しいので、こんなもんで勘弁してください。

最後にワンフェスでの売上と実働時間で時間あたりどれだけ稼げてたのかを計算してみます・・・。

まとめ

フィギュアの原価っていくらなの?ワンフェスで売られているガレキの値段が本当に高いのか作ったフィギュアで計算してみた。

▲こちら記事で書いた売上を元に、時間あたりどれだけお金が発生していたのかを計算してみます。

色んな諸経費を引いた純利益が189,284円なので

189,284円÷282.83時間=669.25円/時

ん?意外とある。日本の最低賃金には届かないが、それと近いくらいはある。

半年かけてフィギュアを40体作って、8,000円で全部売り切ればこのくらいになるってことがわかりました。

こういった現実があっても、毎年ワンフェスでは数千を超えるディーラーが集まってフィギュアを作りまくってるわけです。

そして、そのほとんどのディーラーは売上よりも「好きなものを作って色んな人に見て欲しい!」という感覚でやっています。もちろん私もその中の1人です。

「原価」やら「人件費」というちょっと過激なワードにはなってしまいましたが、一般の方にも「こういう趣味の世界があるんだ」というのを知るきっかけになればいいなと考え、記事を書かせていただきました。

ワンダーフェスティバルを始め、日本では色んなフィギュアイベントが開催されています。たくさんの好き詰まったフィギュアが並ぶ、とても魅力的な造形イベントです。

この記事を読んで、少しでもガレージキットのイベントに興味を持ってくれる人が増えてくれればと思っております。

それでは。